冗長な展開が魔法を生み出す
『ハンサード』 は1980年代サッチャー政権下のイギリスを舞台に進行していく演劇です。
保守党政治家のロビンとその妻ダイアナの関係性から物語が進んでいき、表ではキャリアを積んだハイクラスの男性のはずのロビンが、一度家に帰ればアルコールに溺れた妻とキツネに荒らされ放題の庭が待っているという荒んだ生活が待っているというところから場面がスタートしていきます。
『ハンサード』 で伝えられているメッセージとは、ズバリ「人間の温かみ」でしょう。
犬も食わないような夫婦喧嘩を冗長と言えるほどディティールを細かく繰り返すことによって、その二人の人間性を事細かに表していくのです。そうすることによって、傍観者だったはずの観客はまるでその二人の友人のような気分に没入していきます。
物語に入り込みやすい人ほど、ラストの展開には大きな感動を感じずにはいられないでしょう。
『ハンサード』 の口コミ・評判について
ナショナル・シアター・ライブの『ハンサード』の口コミや評判の中で目立つのが舞台の人間臭さです。
夫婦喧嘩が中心に進められていく設定でありながら決してドタバタとした展開ではなく、むしろ静かで淡々と物語が流れていきます。その中からラストに向かって展開していくストーリーは制作陣の手腕が光る名作だと評価されています。
しかし、一方で冗長であるという声があるのも事実です。
『ハンサード』はイギリスで作られた舞台であると同時に1980年代のサッチャー政権を軸に進行していくため、その当時の時代背景はもちろんのこと、イギリスの持つ文化や国民性などを強く理解していないと場面に付いていけないという声もあります。
しかし、このような政治的な会話の中にはLGBTなど現在でも大きな話題を呼ぶものがあり、時代背景の中から思考を深めるケースもあるようです。
心動かされる演劇を観るならば
2009年から10年以上行われている「ナショナル・シアター・ライブ」は現在40カ国を超える地域で展開されている人気企画です。世界の観客総計は55百万人を突破するなど大きな反響を獲得しています。
映画館で傑作舞台を楽しむために演者はもちろん、監督や美術、カメラマンなどが知恵を絞って配慮を重ねているため、お金をいくら積んでも劇場では楽しむことが出来ない極上の仕上がりへとブラッシュアップされているのです。
ナショナル・シアター・ライブはイギリスの演劇を気軽に楽しむことが出来る取り組みです。10年以上続けられているためノウハウが蓄積されており、どのようなカメラワークや演出が観客に届くのかという緻密な計算がされています。
このようなクオリティの高い演劇というのは日本ではなかなか観ることが出来ないため、ナショナル・シアター・ライブの評価が高まっているのです。そんなナショナル・シアター・ライブの人気演目の一つである 『ハンサード』 は2021年11月現在上映が終了しております(※)が、アンコール上映されることがあればぜひ観ていただきたい作品です。
この作品は、現在・過去・未来に繰り返されるであろう議題のひとつである「夫婦仲」にスポットを当てることによって、人間の持つ根源的魅力を訴えかけるこの作品は観客に向けていくつも演出の魔法を仕掛けています。
玄人の舞台好きを唸らせる脚本の緻密さ、台詞全てがラストへの伏線となっている仕掛け、そして役者陣のスキルの高さ、たわいの無い会話の一つひとつが大きく舞台を彩っているのです。